はじめに
ギターピックアップにおける電気的特性のモデル化手法で解説したように、ピックアップから出力される信号はインピーダンスが100 kΩ以上となります。
ケーブルの容量を変えるとどれくらい変化するのかシミュレーションで確認してみましょう。
基礎理論
まず、ケーブルを等価回路で置き換えると、このようになります。
(なお、このモデルは厳密に正しいわけではなく、オーディオなどの、低周波かつインピーダンス整合が取れていない比較的単純な等価回路であることに留意してください。)

ケーブルの等価回路
抵抗は導体自身の電気抵抗、インダクタンスは電磁誘導、容量は芯線 - シールド線間の容量により発生します。
実測
では、それぞれの成分はどれくらいになるでしょうか?これはLCRメータで測定することで簡単に求めることができます。例としてProvidence F201 S/S 5mの測定データを示します。
測定方法
- 測定治具を含めたキャリブレーション
- ケーブル+測定治具を含めてLs@1kHz, Cp@1kHz, DCRをそれぞれ3回測定
- 治具のバックグラウンド値をそれぞれ測定し、差し引き
測定結果
DUT: Providence F201 S/S 5m
Ls@1kHz: 1.3 uH (2.0%+5)
Cp@1kHz: 658.8 pF (2.0%+3)
DCR : 0.09 Ω (1.0%+3)
測定精度について
DE-5000の精度表記は「○○%+数字」の形式で表されます。
Cp@1kHzの場合:
2.0%+3が精度を示し、相対誤差2%、絶対誤差0.3 pFを示します。
相対誤差 = 658.8 pF × 2% ≈ 13.2 pF
絶対誤差 = 0.1 pF × 3 = 0.3 pF
合計誤差 = ±(13.2 + 0.3) = ±13.5 pF
測定範囲:645.3~672.3 pF
Ls@1kHzの場合:
絶対誤差が支配的であり、測定範囲は0.8~1.8 uH(百分率に変換すると±40%程度に相当)
DCRの場合:
こちらも絶対誤差が支配的であり、測定範囲は0.06~0.12 Ω (±33%程度に相当)
このことからも、ケーブルのインダクタンスや抵抗値をLCRメータで正確に測定するのは困難であることが読み取れます。
方法
下図のように、電装系を再現します。ケーブルの各種パラメータは長さに比例すると仮定してシミュレーションを行っていきます。
電装系は例としてFender Custom Shop Texas Special 測定データからネックPUの値を用います。
経験則的にプラグ部分での容量値は30pFとします。 よって単位長さあたりの容量は約125 pFとなりますから、長さ[m]あたりの容量は
から求められます。
抵抗値とインダクタンスに関しては誤差範囲が広いことから、簡単のため長さの単純倍として求めます。

LTspice上でケーブル長の変化
結果
こちらのような結果となります。長さは1, 3, 5, 7, 10, 15, 20mの場合でシミュレーションを行いました。

ケーブル長さを変化させたときの周波数特性
ケーブル:Providence F201、PU:Texas Special Neck
ここで注目したいことは、ケーブルの抵抗値とインダクタンスが、ピックアップの出力インピーダンスや後続のアンプの入力インピーダンスと比較してかなり小さい点です。
ケーブルの抵抗値とインダクタンスについて
例えばピックアップのインダクタンスは2 H以上であり、これはケーブルでの2 uH前後と比較して、100万倍程度に相当します。また、抵抗値についても同様のことがいえます。
以下にケーブルの容量を650 pFに固定した時の周波数特性を示します。

ケーブルのインダクタンス・抵抗値のみを変化させたときの周波数特性
ケーブル:Providence F201、PU:Texas Special Neck
完全に一致します。人間は0.5 dB違う音を弁別できないといわれていますから、この結果から完全にケーブルのインダクタンス・抵抗値は音に影響しないと説明することができます。
このことからも、ケーブルと電装系の相互作用を知るためには、ケーブル容量のみ測定すれば良いことがわかります。
容量別の周波数特性
最後にケーブル容量を200 pFずつ変化させたときの周波数特性を示します。ケーブルのインダクタンス、抵抗値はそれぞれ、2 uH、0.1 Ω固定としています。
ケーブル容量を変化させたときの周波数特性
PU:Texas Special Neck
ローインピーダンス条件では
バッファを通過後の信号は、出力インピーダンスが600 Ω前後のローインピーダンスとなり、それ以降ピックアップの出力インピーダンスの影響を受けなくなります。
その結果、言うまでもないかもしれませんが、まったく変化しません。例として出力インピーダンス600 Ωのデバイスと、入力インピーダンス1 MΩのデバイス間のケーブル容量を変化させた場合の結果を示します。

ケーブル容量を変化させたときの周波数特性
なので、エフェクターボード等で一旦バッファを通ってしまえば、ケーブルでの音質変化はありません。万が一あるならば、それは出力側か受け側の動作不良です。パッチケーブルは取り回しと信頼性で選べば間違いありません。
まとめ
ケーブルによる音質変化はケーブルの容量に起因します。厳密に言うならば、ケーブル固有の音というわけではなく、ケーブルとピックアップの相互作用(LCR共振)によって決定します。すなわち、容量値が同じであればどんなケーブルでも同じ音が得られます。例えば1 mあたり1,000円するBELDENの8412でも、100円/mで買えるCANAREのL4E6Sでも容量さえそろえてしまえば得られる音質は同じで、違うのは取り回しと(その容量を実現するために必要な)ケーブル長です。
個人的なおすすめは長さは違うが容量が近いケーブルを揃えることです。例として私が普段使っているケーブルのうち、ギターケーブルとして用いているものを紹介します。
| OYAIDE G-SPOT CABLE | 3.0 m | 628.3 pF | 自宅練習用 |
| (Providence F201) | 5.0 m | 665.4 pF | ライブ、バンド練習用 |
| Sir Tone Type-1 | 7.6 m | 658.9 pF | ライブ用 |
参考として、代表的なケーブルの静電容量のカタログスペックを紹介します。G-SPOT CABLEのみ実測値からの推定値です。